僕の担当した生徒に、「薬剤師になりたい」というMちゃんがいました。
Mちゃんは、数学だけ極端に成績が悪く、どれだけ勉強しても成績が上がらず、困り果ててイノセントに来てくれました。
Mちゃんは数学以外の成績は良く、勉強もできる子です。
ですから、どれだけ勉強しても伸びない数学に対しては、恐怖すら感じてたのでは?と思います。
僕も、以前は勉強が苦手でした。
だから、生徒たちをみていても「苦手なことに向きあうのって、キツイよね」という共感しかないです。
記事の内容
数学だけ極端にできない赤点ライン
Mちゃんは高校2年の2-3月頃に入塾しました。
その当時の進研模試の数学は30点あるかないか。偏差値は42ぐらいでした。
公式の使い方も分かっておらず、数学への苦手意識が強かったです。
と聞くと、
嫌悪感を顔ににじませ、それ以上話してくれませんでした。
幼少期や中学からのつまづきを、これまで引きずってきたのかもしれません。
Mちゃんはヒアリングで、薬剤師になりたいという夢の話もしてくれました。
ただ、その当時のMちゃんからは、「自分を表現するのが苦手」「思ったことを言葉にできない」「自信がない」という印象受けました。
ですので、ただ漠然と、ある程度勉強ができているから薬剤師になろうかな、と思ったのかな?とも感じたんです。
僕は進路を決めるときには、「ただ薬剤師になる」ではなく「どんな薬剤師になりたいのか?」「なぜ薬剤師になるのか?」の方が重要だと考えています。
ともあれ、薬学部を受験するなら数学は必須科目。
Mちゃんは他の教科は点数が取れていたので、イノセントでは数学だけ受講することになりました。
実際にMちゃんが取り組んだこと
それでは、Mちゃんが約1年間かけて実際に取り組んだことを紹介します。
それは、オリジナル数学問題プリント「イノプリ」です。
僕の数学の授業では井上のプリント、通称「イノプリ」を使います。
A3両面のプリントを授業で配って、終わらなかった問題は宿題になります。
ちゃんと解けているか、身についているかを確認するために、翌週にもイノプリをチェックします。
教えてもらったその日なら解けるのは当たり前です。
でも、翌週までの宿題にすることで、一週間後でもできるかどうかを確認しているんです。
イノプリには、その年のトレンドや模試の傾向を踏まえた問題を盛り込んでいます。
毎年更新しているので、プリントを作るのも大変ですが、それ位しないと生徒たちの成績は上がりません。
(車の中はテキストだらけです 笑)
イノプリは、1度やっただけで成果が出るものではなく、2回、3回とやり込むことで、ようやく少しずつ成果が見えてきます。
数学はただ解けば良いのではなく「紐解くこと」が大事
数学は分野学習です。
数学1Aの内容は2Bにつながり、2Bの内容は3Cにつながります。
つまり、前の単元がわかっていないと、その後の単元がわかりません。
徐々に難易度も上がり、数と式の問題から、最終的には証明、定義に入ります。
「なぜそうなるのか」を順序立てて説明できなければいけません。
ただ解けば良いのではなく「紐解くこと」が大事で、大学入試問題では、その力があるかどうかを見ています。
教科書どおりの高校の授業は「できた気になる」だけ
教科書は、その学習の単元を追うだけなので、授業を終えれば「できたように」思うんです。
でも次の単元に入ったら、できない子がでてきます。
そういう子たちができないのは、単元同士がつながっていないからです。
教科書通り単元ごとに勉強していくと、
「1個覚えて、忘れる、次また1個覚えて、また忘れる。」
どうしてもそうなりがちです。
だから、僕の授業で教えるときは、1回でどれだけ大きなインパクトを与えられるかにこだわっています。
単元同士をつなげれば全体の復習ができる
数学にも解き方のコツはあります。
自転車に乗るのと同じです。
例えば、僕の数学のある講座では、高校3年生の生徒たちに
「三角形の面積の公式を何個言える?」と問います。
それを、1Aと2B、全ての単元の垣根を超えて、数学の範囲全部で挙げてもらうんです。
三角形の面積の公式は、
・底辺✖︎高さ / 2
・rsinθ / 2
・b x c x sinA / 2
・ヘロンの公式
・…
などなど、たくさんあります。
ただ根本には、小学生で習う「底辺 x 高さ / 2」があり、
「高さ」の部分を「rsinθ」で表すというように、
根本の定義は同じだけど、単元によって表現が変わるだけなのです。
それに気付けると、単元がどんどんつながっていくので、
たかだか1~2問で、全体の復習ができるようになるんです。
そのための地道な訓練が、「イノプリ」をくり返すことなのです。
1年間イノプリをやり続けた結果は?
Mちゃんは見事、崇城大学の薬学部に合格しました!!
僕が教えていた数学は、顕著な成績の上がり方をしていました。
イノプリに取り組んだ結果、じわじわと、でも確実に伸びていったんです。
Mちゃんは元々持っていた勉強の資質があって、努力ができる生徒でした。
だから、僕は「大学には当然受かるだろう」という確信がありました。
今後もMちゃんなら薬学部で勉強し、国家試験にも合格し、薬剤師になれるだろうと、思っています。
Mちゃんはどんな薬剤師になりたいのか?
そんなMちゃんの進路でひとつだけ気になっていたのは、
僕が彼女に聞いた、
に対しての答えでした。
薬剤師は患者さんの命に関わる重要な仕事です。
そのため、僕はMちゃんにこう伝え続けていました。
Mちゃんが薬剤師になるなら、患者さんに渡す薬の、数ミリ、数グラムに愛を込められる人であってほしい。
「薬剤師は私にしかできない仕事」と思うため、患者さんに寄り添ったアドバイスをするためには、コミュニケーションは大事だよ、
薬学部に合格することがゴールではなくて、どんな薬剤師になりたいか?までを思い描いてみてほしい。
その問いに対する答えを、2月のバレンタインデーに、意外な方法で受け取ることになるのです。
Mちゃんからの手紙
2月のバレンタインの日、教室長経由でMちゃんからの手紙を受け取りました。
Mちゃんは高校3年生の3月に塾をやめることが決まっていたので、
そのお礼かな?と思って開くと、手紙には、こう書かれていました。
「授業はひとまず楽しかったです。
けど先生が言われてたように、『薬剤師になりたい』ではなく『どんな薬剤師になるのか?』と考えた時、
「人とコミュニケーションが取れて、人に寄り添える薬剤師になりたい」と思いました。
井上先生の言われてた通り、私に足りないものは、人を喜ばせる力、幸せにする言葉を添える力だと気付きました。
それを学ぶためにも、井上先生のいるこの会社で コミュニケーション能力を磨くためにアルバイトさせてください。」
なんと熱いラブレターでしょう!
Mちゃんは寡黙で喋らない印象だったから意外でしたね。
現在Mちゃんは大学2年生。
崇城大学に通いながらイノセント武蔵ヶ丘教室で働いています。
授業のにもたくさん入ってくれているし、
新しいことにもどんどんチャレンジしています。
コロナ禍の今も、オンライン授業のやり方を研究・提案してくれて、他の講師からの信頼も厚いです。
そして何より、今のMちゃんは、誰よりもしゃべるんですよ!
適切な言葉のチョイスができていて、毎日楽しそうに仕事をしています。
入塾当初は、「自分を表現するのが苦手」、「思ったことを言葉にできない」、「自信がない」そんな子でした。
彼女が変われたのは、「人とコミュニケーションが取れて、人に寄り添える薬剤師になりたい」という、明確な目標ができたからです。
こんな風に、数学を通して、人物教育にもなっています。
勉強する理由は選択肢を広げるため
学生の時、「何のために勉強するのか?」と、考えたことは誰でも一度はあると思います。
僕は、「努力して上にいけば選択肢は広がる。だから勉強する」だと思っています。
勉強で成績を上げることは夢の幅を広げることにつながります。
だから僕は、そのお手伝いをしたくて塾講師になりました。
塾での指導に「正解」というものは存在しません。
ただ、担当している生徒が諦めたらそこで終わってしまいます。
でも僕は「あなたの人生に関わってるから、僕は諦めないよ!」って言い続けています。
生徒のことは、正直全ては分かりません。
だからこそ、少しでも分かろうとして、常にコミュニケーションを取ろうと心がけています!
Mちゃんに対しても、知ろうと思ってたくさん語りかけました。
そうして、Mちゃんは自分と向き合って、本当の夢を見つけて、僕のもとで働きたいと申し出てくれました。
Mちゃんの場合は、少し特殊なケースですが、生徒の選択肢を広げる手伝いができるこの仕事は、僕の天職です。